【2024年公認会計士試験合格者向け】n=1の紆余曲折
会計士試験の受験お疲れさまでした。
公認会計士試験、受験お疲れさまでした。
本記事は2024年度の公認会計士試験合格者へ向けたリレーメッセージの一つとなります。
合格された方、おめでとうございます。
そして、惜しくも不合格となられた方、身辺を見直しチャレンジできる環境であればまた是非チャレンジをしてください。それだけの価値はあると思います。
今回は、会計士試験を中心に筆者の過去を思い返した思い出話が殆どです。
もし、この記事の結論を知りたい方は一番下までスクロールしてください。この記事でお伝えしたいことを要約しております。
「まぁ時間あるし読んだるで」といった方は頭から読んでいただけると幸いです。
合格前後の時代
2012年の試験に合格したので、ちょうど干支が1周した年になります。
当時を少し振り返ってみますと、ちょうど就職難から就職しやすい環境に変わりつつある過渡期でした。監査法人への就職を考えると、以下の様な変遷をたどっていたようです。
2006年:新試験の第1回目
2007-09年:比較的高い合格率が続く。このころ金商法への改正による四半期開示、JSOX制度が導入。
2010-11年:ここ数年の人余りを反映し合格率が低下。採用は売り手市場から買い手市場へシフト。複数回面接やディスカッション、小論文など。
2012年:採用を絞りすぎたことから徐々に人手不足となる。東京では採用数が増加、(筆者が就職活動をした)関西は依然として採用控えが残る。
その後は、会計士試験への受験生減少が進んだことや監査手続の充実化の方向が強まり監査法人内でも人手が不足した状況が続き、結果として売り手市場が続いたようです。
今の監査法人への就職環境がどのような状況かは、情報を仕入れていない筆者からはわからないのですが、少なくとも今年試験に頑張って挑戦された方々に良い未来が待っていることを筆者は祈っております。
さて、筆者は新卒後に入社した会社で4年近く仕事をしてから、退職をして2012年の試験へ挑みました。
元々は工学(無機化学)を勉強しその後もメーカーで開発職に就いたため、会計は全く知らなかったのですが、筆者を会計士へ挑戦させた要因は大きく3点ありました。
①筆者の兄が税理士だった
②筆者が中学生のころに「日本の世の中で、難しい試験のうちの1つとして会計士試験がある」という話を通学した塾の講師が話していた
③メーカーで開発している製品の原価予測をするために会計を(軽くでしたが)使っていた
①については、メーカー勤務時に実家に帰省した際に兄から「PLとかBSは知っているか?」と聞かれた際に全く答えられず、悔しかったことが実は一番の原動力になります(笑)。
②は昔のことながらずっと覚えておりました。この難しい試験にいつか挑戦してやろうと考えていました。お金のない家庭環境を考えると自費で受験の機会を作る必要があったため、その機会を得るのに10年以上たってしまいました。
③は実際に手を動かして計算して収益性を考えながら製造プロセスを考えるのは非常に面白かったです。そこそこ意味のある数値も出せたこともあり「自分にはこうした会計を使った仕事へも進めるんじゃないか」と思いました。
いい歳をして挑戦した(修士を修了して4年近く働いたので28歳で試験勉強を始めました)にもかかわらず、「〇〇がやりたいので会計士となりたい」
といったような意思もない挑戦となりました。
資格を手に入れていれば生活には困らなさそう、といった側面で試験へ挑戦された方々がおられるかもしれませんが、筆者も同じような考えでした。
2010年の年末にメーカー開発職を退職。
メーカーを退職した当時の筆者の三井〇友銀行の残高には400万円がありました。
先ほどの簡易的な年表を見ていただくとわかるように2010年は合格率が低下し始めた時期です。筆者はその前の2008年等の合格率の情報をみて、「今なら結構余裕でいけるんじゃ」と思い挑戦することとなりました。当然2010年の合格率など見ておりません。明らかにこの時点で作戦が誤っておりました。
退職時には同期で入社したメンバーと飲みに行きました。メーカー就職の際に採用面接をした上司は「次はそんなにすぐに辞めるなよ」と言っていました。
(その後就職をする監査法人も比較的短期で辞めることとなるわけです。)
年が明け2011年の新年から簿記の勉強を始めました。勉強自体は非常に面白かったです。予備校へ年始早々に行くとテキストをドサッと渡されました。財務会計論が特に面白く、早々にテキストと問題集を1冊やり終え、巻末問題を解答方法を覚えるまで繰り返したことを覚えております。
ただ、そこから先の記憶はあまりありません。
途中、連結会計と組織再編会計が他の受験生よりもすぐに成績が伸びたのもあり非常に面白かったこと、短答には1度落ち(2011年第2回)て2度目(2012年第1回)でようやく合格できたこと、会計士クラスの隣の税理士試験法人税法のクラスの受講者を見て理論サブノートと市販の法人税法と消費税法の問題集を購入し理論暗記と問題を解き始めたことは覚えております。
無職のため預金残高の燃焼と合格との時間勝負でしたが、結果は預金残高が150万を切ったところで合格をしておりました。
人間、特に年を取ると不都合なことや苦しかったことは覚えておらず良かったことや楽しかったことはよく覚えています。
現在、筆者もそんな年代に差し掛かってきました。受験時代は苦しかったのかもしれませんが、今となっては受験勉強に集中できる環境で勉強できた、といういい思い出しかありません。
監査法人への就職!監査!結婚!
人生初のまともな就職活動をして監査法人へ働くこととなりました。(前職はOBとの飲み会へ行っているとそのまま就職をしているような状況でした)
有限責任監査法人トーマツの大阪事務所です。上司・先輩は勿論、同期に何人も若く優秀な合格者がいます。前職の職場と比べても仕事に前向きなメンバーばかり。
当時の事務所は6つの監査部門に分かれていましたが、筆者は6つ目の部門にお世話になることになりました。
監査法人は被監査会社に対して監査チームを1つ組成し、スタッフの立場であればこの複数ある監査チームのうちの数チームに所属することになります。
各監査チーム毎に中心となるパートナーとマネージャーがいるため、筆者がお世話になった上司や先輩も何人もいます。どの上司・先輩も厳しい一面がありながらも面倒見の良いのが共通しておりました。
監査調書をとにかく作り、先輩方の監査調書(巻物のようなものから非常にシンプルながらも要点を抑えたものまで)を眺め、勉強する日が多かったように思います。併せて会計基準を勉強しました。連結・企業結合事業分離の基準は(クライアントが買収に旺盛であったこともあり)面白かったですし、当時は退職給付会計の改正が行われ給付算定式基準が導入された時期だったためこの基準も勉強をしました。
監査法人の先輩から「確かに会計や監査について君より一日の長があるが、新しい会計基準であれば話は別だ。早く勉強をして身に着けた者に一日の長がある。」と言われたのも当時の知識欲を刺激しました。
メーカー勤務時は終わりが見えない残業がつづくか上司と飲み歩くような日々でしたが、良い意味で閑散期と繁忙期が比較的はっきりしており勉強がしやすかったのは監査法人での勤務の大きな特徴かもしれません。今の監査法人の年間スケジュールは存じないのですが、四半期毎のレビューと監査から、半期と年次のレビューと監査となった影響も出て、季節的な繁閑の差はまた顕著に出てくるのかもしれません。
監査法人へ入所し2年がたった頃、会計士協会準会員会の主催で異業種交流会が開かれていました(中身は合コンでしたが)。
筆者も一つ年次が上の先輩と一緒に参加をしました。そこで妻とであい、半年後には結婚をしておりました。
結婚を機に(人生2度目の)関東進出を決意。異動には大阪事務所で部門長のパートナーへ申し出ました。
年次的は修了考査前のスタッフ、そこそこ真面目に(?)勤務していたのもあり無事に希望通り東京事務所へ異動することに。
異動後半年で会計士の修了考査。当時は半分以上が受かる試験でしたので、落ちたら恥ずかしい、と当時としては必死に勉強をしておりました。
数時間ぶっ続けでペンを持つ試験はもう受けたくないなと思ったのも修了考査です。試験が終わった夜は妻とスペイン料理屋で乾杯して気の早い前祝をしました。
退職、再就職、独立。
修了考査も終わり、会計士登録を目前に控えこれからどうしようかと考えていた際に、税理士事務所を開業した兄から「うちに来ないか?」とお誘いを受け
折角だし行ってみるかと思い、監査法人を退職し税理士事務所へ就職をしました。
監査法人の退職時では部門を統括するパートナーからは特に何も言われず、監査法人は退職者が多いというのも実感しました。
税理士事務所は京都です。いくつかのクライアントへ巡回しつつ、法人の申告書を作成しつつ、年末調整しつつ、個人の申告をしつつ、、と通常の税理士事務所業務です。新鮮さはありましたが、監査法人で仕事をしていた時に感じた面白みは残念ながらあまりありませんでした。ただし、知識としては税理士事務所職員の働き方や考え方は必死に覚えました。監査法人をやめた、という事実をやめてから実感して焦りがあったように思います。
そうこうしているうちに、関東圏出身の妻から関西での暮らしが合わないと申し出を受け、結果1年もたたずに3度目の関東進出(1度目はメーカー勤務時、2度目は監査法人での東京事務所への異動)することになりました。
実に1年ほどで関東圏へ帰ってきたのですが、
「監査法人はやめた、税理士事務所もやめた、若干の監査の経験と税理士事務所での経験はあるが・・・さて、何をしよう?」と考えました。当時既に30代後半に差し掛かろうかという年齢。学生合格の方であればとっくにマネージャーになっている年です。どこかの会社で働くイメージも湧かなかったので、そのまま税理士資格を取得し独立をすることとしました。
独立したはいいものの。
独立後、すぐに何か仕事をとれるわけではありませんでした。また、行き当たりばったりで独立をしたため、何かをやりたいという動機も非常に薄い、何のために独立をしたのかは分からない状況でした。
大手監査法人で仕事をしていたということでご祝儀的にいくつかお仕事のお声がけいただいたことも有りますが、そうしたネタはすぐに底をつきました。自分で飯のタネを作ることになるわけです。
また、妻も妊娠・出産をし「何をしよう」から「何をして食べていこう」へ考えは変わりました。
結果、幾つかの伝手をたどり、中堅監査法人での非常勤監査の仕事をしつつ上場企業の決算支援をしながら食いつないでいく日々が続くこととなりました。
目的もなく独立をする人自体が少ないのかもしれませんが、
目的もなく独立をすると、何をしようかと悩むのはよくあるパターンなのかもしれません。
筆者は何をしたいかを考えないまま食べるために働く日々へと突入していきます。監査もやり、税務も来たものはやり、決算支援でお声がけいただいたら客先へ出向きとにかく作業。
そのうち、生きるために作業をすることに集中しすぎて、こうしたことを悩む暇すらなくなりました。
(完全に反面教師です)
自分自身の「与件」を読み返えす。
おそらく、監査法人の就職時の面接で聞かれた(聞かれる)と思います。
「あなたは、会計士として何をしたいのですか?」
筆者が監査法人へ就職する際にもこの問いはありました。当時「中小企業を支える会計士となりたい」と回答をしました。
実のところ、この問いはすでに資格を取った面接官である会計士自身にも向けているのかもしれません。
監査法人の定年は事業会社と比較しても早く、また健康寿命が延びている昨今において監査法人で仕事をする期間がいかに長くても、いずれそこから出ることとなります。
また、そもそも監査法人に定年まで勤務する会計士もそれほど割合として多いとは言えません。どこかの会社へ務めたり、独立したり、とその後の進路は様々かと思います。
そのたびにこの質問は考えることとなります。
幸か不幸か、筆者は早々に独立をすることとなりました。その際に再度ぶちあたったのがこの質問でした。
残念ながら、すぐには解答を作れなかったのですが、生きるための仕事をしているうちその中で一番面白かった決算支援・連結会計の仕事が広がったのは幸運でした。
会計士試験の合格者の皆様も監査法人就職面談時には何とか懸命に何かしらの返答ができるように事前に準備しておられると思います。
回答に具体性が無くても希望する監査法人には就職かもしれません。
大学受験でも会計士試験でもいえることですが、質問に対して回答するには与件を読んだ上でその状況に応じた解答をすることとなると思います。
筆者にとって、「会計士として何がしたいのか?」もまさにこうした類の質問でした。
ここで少し筆者のやっている連結会計の話を記載したいと思います。
連結会計の話とはいえ、P社とS社は出てきません。
連結会計の仕事と聞いてどのように思われるでしょうか。
「連結会計は会計士試験どころか簿記検定でも出てくるものだし、誰でもできる内容で、仕事にならなさそう。」
といった声があるかもしれません。
確かに連結会計は会計士試験の、それも一番配点の多い財務会計の中心のテーマであると言えます。そのため、殆どの受験生が勉強をしているということは否定しません。ましてや、今日では日本商工会議所の簿記検定2級でも出題がされております。文字通り「勉強をした人なら誰でも知っている」知識となってきているのは事実と言えます。
ただ、連結会計はいまだこの日本社会にとっては一部の企業のものですし、2024年に限って言っても
・固定資産未実現の仕訳の入力漏れにより訂正報告書を出した事例
・連結範囲の検討を誤った結果、訂正報告書を出した事例
・前期末の子会社売却に係る税効果会計の連結仕訳の入力が漏れた結果、訂正報告書を出した事例
と、連結決算体制のある上場会社であっても連結会計・連結決算で誤りが生じたケースがいくつかありました。
連結会計は広く知られた分野でありますが現実はこうした状況であり、さらに連結会計が法的に要請されていない非上場会社ではどのような状況かは推して知るべし、というのは容易に想像がつくかと思います。
また、筆者の身近な会計士に連結会計の話をしたところ「もう全く覚えていない」とおっしゃった方も複数名おられます(その方々はそれぞれ別の専門の分野で活躍されてます)。
人間忘れる生き物で、特に使っていない試験勉強で詰め込んだ知識は本当に忘れます。連結会計も例外ではなく、連結会計を中心として組織再編や開示を勉強するとそれだけでも十分世の中に貢献は可能です。
試験後の余裕のある時期に「こうした分野で将来活躍をしたい」とぼんやりとでも考えるのは有用だと思います。それが監査、会計、税務、これらを利用した関連分野でなくても良いと思います。
筆者は会計士を取得してこうしたことを考えておらず、行き当たりばったりで様々な仕事をして遠回りしながら考えた結果、自分自身の経験や興味から結果として連結会計を主な仕事としております。
おそらく、ここまでは他の一般的な自分探しライクな書籍にも書かれていると思います。
ですが、せっかく会計士試験を突破されたのです。何かを見つけたならそこを深堀りし、専門性を高めてください。
幸いなことに、会計や税務の分野では相当書籍が充実しております。取っ掛かりを得るには十分です。(但し取っ掛かりになるというところで大体が終わります。世の中書いてない事の方が多いです。)
また、(おそらく合格者の大半が進路として選ばれる)監査法人は特に「こうしたことに興味がある」とアピールをすることで(特に監査、会計、税務やこれらの周辺領域へは)進みやすい環境だと思います。この環境をフル活用しない手はありません。
また、ぜひ目標を持ってください。そしてその目標に向けて努力(特に机に向かった勉強や読書以外の努力)をしてください。
長期にわたる試験対策と長時間の試験を経て試験を突破された合格者であれば、世の中あきらめなければできる事が殆どであることはすでに実感されたと思います。
紆余曲折の結果得たこと
これまでの文章のざっくりとしたまとめを記載します。
・特にやりたいことが無く会計士になったが、自分の過去を振り返り、やりたい分野を見つけ、専門性を高めるための行動をとった
・専門性を持つのは有用であるし誰もが見知った分野だとしても専門性はある
・目標(短期的・長期的のどちらでも良いです)を持った方が良い(無いと筆者のように会計士として深みを作れない数年過ごすことになる)
というのがこれまでで得た知見です。
また、独立してから「何をしよう?」と考えた筆者でもこれまで何とか食いつないでこれたことから、手に職がつくためくいっぱぐれにくい、といった側面は事実だと思います。
試験を合格されご活躍されるであろう皆様、再度「会計士として何をしたいのか?」を考えてみてください。
その際に解答の指針となるのは自分のこれまでの経験や経緯です。また経験がなくとも何か興味があることは見つかるのではないでしょうか。
それが些細な分野であったり誰もが勉強をしてきた分野であっても簡単に切り捨ててしまわず一歩踏み込んで専門性を高めてみてください。
もう一歩踏み出すことで、より面白い世界が見えてくるようになると思います。
12年間という干支を一周した期間に得た知見の一つ(長い期間のわりに薄い知見なのはすみません。)ですが、今年の合格者の皆様のお役に立てれば幸いです。
明日はKBにゃす(かばにゃす)先生です。
データサイエンスに明るく、筆者が尊敬する会計士の一人です。
期待しましょう!